東映今昔座掲示板の支配人である“旅がらすさん”のレスを定期的に掲載致します。また、掲載にあたりましては掲示板からの移行であることから話題の流れの一部を抜粋したものであり、多少の編集をしております。文章の流れから当事者以外は意味不明な点はご了承下さい。
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》 旅がらすさんのベストテン
 
 *大川橋蔵編*

大川橋蔵さんの出演映画ベストテンを選んでみました。橋蔵さんの映画出演は「笛吹き若武者」(昭和30)から「銭形平次」(昭和42)まで113本あります(ただし、アンソロジーの「ちゃんばらグラフィティー 斬る!」は除く)。

 この内見ていないのは「復讐侠艶録」(昭和31)と「バラケツ勝負」(昭和40)の2本だけです。もっとも、小学校1、2年生の頃に映画館で一度しか見たことのないものや、テレビ放映で見ただけのものも相当ありますが、その点はご了承下さい。

 また、橋蔵さんの場合は中村錦之助さんと違って、助演(ないし準主演)という形での出演がかなり多いことも特徴のひとつです。錦之助さんがあまり参加しなかったセミオールスターものにも橋蔵さんは毎年のように出ていました。

 昭和30年代東映のドル箱スターとして活躍し、人気の面では錦之助さんと肩を並べていたものの、作品や演技力という点では常に錦之助さんよりも低く評価され、過去の栄光に比べて今では映画史の片隅に追いやられているといった感のある橋蔵さんですが、作品紹介も兼ねて少々長めのコメントを付けました。


  ・赤い影法師(1961)
  ・若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷(1958)
  ・新吾十番勝負4部作(1959−60)
  ・旅笠道中(1958)
  ・恋山彦(1959)
  ・大江戸の侠児(1960)
  ・江戸っ子肌(1961)
  ・月形半平太(1961)
  ・若様やくざ(1961)
  ・美男の顔役(1962)
  
 番外編1(準主演・助演作から)
  ・血槍無双(1959)
  ・丹下左膳 妖刀濡れ燕(1960)
  ・花笠若衆(1958)

 番外編2(セミオールスターから)
  ・天下の副将軍(1959)
  ・幕末の動乱(1960)

 番外編3(オールスターから)
  ・水戸黄門(1960)
  ・勢揃い東海道(1963)

このベストテンもトップ以外は順位は無しですが、ベストワンをどれにするかで迷いました。私の中では「血槍無双」か「赤い影法師」のどちらかしかないんですが、「血槍無双」は一応千恵蔵主演の形になっているので泣く泣く(?)番外編に回すことにしました。ベストテンは橋蔵主演作品だけで統一してあります。

 マイ・ベストワンの「赤い影法師」は昭和37年正月映画で、前年末に公開されました。家光の時代、寛永御前試合を背景に、徳川幕府転覆を狙う豊臣残党の忍者(母影・若影)が財宝の在処を求めて、その手がかりとなる宝剣を狙うというストーリーです。「隠密剣士」が忍者ブームを巻き起こすのは昭和37年後半ですから先駆的な作品ともいえます。柴田錬三郎さんの原作が素晴らしい傑作小説ですが、映画も東映調にアレンジされているとはいえなかなかのものでした。導入部からまったく隙のないストーリー運びで、ラストまで一気に引き込まれてしまいます。
 また共演者の顔ぶれが豪華で、大友柳太朗、里見浩太郎、近衛十四郎、大河内伝次郎、黒川弥太郎、品川隆二、山城新伍、沢村訥升、東野英治郎、平幹二朗、女優陣は母影に木暮実千代、春日局に花柳小菊、女武芸者に大川恵子、といったメンバーが顔を揃えています。橋蔵はもちろん忍者若影の役で、御前試合の勝者に一本ずつ下賜される宝剣(大坂城にあったもの)を狙って次々と武芸者を襲撃するシーンは変化に富んでいて見応えがあります。江戸城内における御前試合のシーンも圧巻で、時代劇王国東映の底力を十分に見せつけてくれます。あらゆる面でおすすめの1本です。

 橋蔵の「若さま侍捕物帖」シリーズは全部で10本作られ(1956−62)、「紅鶴屋敷」はその第7作です。カラーシネスコ版としては2作目に当たりますが、舞台が初めて江戸を離れ、民話風の趣向を凝らしたスリラーになっています。海辺で釣りを楽しむ若さまの着流し姿がとても美しく、橋蔵ファンにはこたえられない作品です。ラストの海賊を相手の大立ち回りも大いに楽しめます。江戸からやってきた若さまに思いを寄せる村娘役の桜町弘子さんも可憐でした。第9作の「黒い椿」も好きな一編です。

 「新吾十番勝負」は「若さま」と並ぶ当たり役で橋蔵の代表的なシリーズ。「二十番勝負」や「番外勝負」まで含めると全部で9本ありますが、やはりなんといっても最初の「十番勝負」が一番面白いです。第1部の前半では、新吾の父親・徳川吉宗の若き日(松平頼方)をも演じており、これがなかなかいいです。橋蔵の水泳シーンも見もの。ポニーテールを参考にして考案された新吾の髷はチャーミングですが、この髪型については賛否両論があり、人によって好みや意見が分かれるようです。
 また、新吾の師の仇役・武田一真を演じる月形龍之介が素晴らしい貫禄と迫力で、完全に圧倒されます。このシリーズの月形さんは必見です。新吾の両親役を演じた大友柳太朗の吉宗、長谷川裕見子のお鯉の方(将軍側室)もいいですね。なお、第1部と第2部は「総集編」が作られたため、現在では「総集編」の形でしか見られないのが残念です。東映さんには是が非でも第1部と第2部を責任持って完全に復元して欲しいと思っています。
(とは云うものの、総集編に使われなかった部分のネガは廃棄されたため永遠に失われてしまい、もはや復元は不可能とのことです。)

 「旅笠道中」は草間の半次郎シリーズの第2作です。このシリーズは他に「喧嘩道中」「おしどり道中」「霧の中の渡り鳥」もありますが、一番好きな「旅笠道中」を選びました。橋蔵の股旅物では「喧嘩笠」も面白いです。

 「恋山彦」は戦前の阪妻主演作のリメイクで、監督も同じマキノ雅弘です。橋蔵は信州の山奥に住む平家の末裔・伊那の小源太と、江戸の市井で不如意の日々を送る剣客・島崎無二斎の二役を演じています。老中田沼の奸計にはめられて追われる身の小源太を、無二斎が身代わりになって助けます。ストーリーを手際よく端折りすぎたための無理があり物足りない面もありますが、橋蔵の気品と美しさを堪能できる作品です。大川恵子さん(小源太の相手)や丘さとみさん(無二斎の相手)とのラブシーンも印象的でした。

 「大江戸の侠児」は白黒作品のせいかどうか、私の知る限りテレビでは放映されたのを見たことがありません。したがって当時(1959)映画館で見ただけのはなはだ頼りない記憶しかないのですが、橋蔵にとっては初めてのよごれ役であり、次郎吉がなぜねずみ小僧(義賊)になったかというストーリーです。あまり深刻なタッチではなくコミカルな部分も多かったと思いますが、それでも武家社会で虐げられた下層民の悲惨さが胸を打ちます。他社出演の香川京子さん(二役)との共演が新鮮でした。子役時代の風間杜夫(住田知仁)も橋蔵の弟役で出ています。加藤泰監督作品としては他に「炎の城」「幕末残酷物語」などがあり、いずれも意欲的な異色作揃いです。

 「江戸っ子肌」は火消しもので、錦之助の一心太助とはまた違った、橋蔵の粋でいなせな江戸っ子ぶりが楽しめる映画です。この映画の橋蔵さんには憂いを含んだ美しさがあり、しっとりとした男の色気を感じさせる演技でした。ヤクザや武士だけでなく町人物(世話物)をもっとやらせてみたかったなという気がします。共演の桜町弘子、淡島千景、黒川弥太郎、山形勲も印象的です。橋蔵の火消し役は他に「大江戸喧嘩纏」や「花吹雪鉄火纏」もあります。

 「月形半平太」もマキノ雅弘監督の作品。時代劇スターなら一度は演じてみたい半平太の役に橋蔵も気合い十分で取り組んでいて、その意欲と意気込みが感じられる好演でした。ラストの大乗院の立ち回りも圧巻で、迫力のある殺陣を見せてくれます。半平太の恋人(芸妓)役を演じた丘さとみさんも美しく、情緒たっぷりの好演です。

 「若様やくざ」は当時としてはモダンなタッチの時代劇で、その斬新さが好評を持って迎えられ、橋蔵に対しても珍しく好意的な批評が多かった映画です。タイトル通り若様とやくざをミックスしたような役どころで、二枚目半を軽妙に演じています。最近この映画を久々に映画館の大きなスクリーンで見ましたが、かって「東映城の姫君」と謳われた大川恵子や桜町弘子の美貌と愛らしさに思わずため息が出ました。

 「美男の顔役」は講談や浪曲でお馴染みの天保六花撰(河内山宗俊)もの。ここでは橋蔵の金子市之丞が主役。美人局で金を強請り取る稼業の市之丞ですが、ある日仲間の直次郎の母親が息子に会いに江戸へ出てきたことから大芝居を打つ羽目に。母ものの要素をミックスさせた笑いと涙の痛快時代劇。幕府内部に権勢を振るう月形龍之介の威厳と迫力がスゴイ。橋蔵と月形の対峙も見ものですが、橋蔵と浪花千栄子のやりとりが泣かせます。共演は里見浩太郎、渥美清、山形勲、山城新伍など。

 番外編の「血槍無双」は橋蔵映画のベストワンに推してもいいくらいの出来映えをもった作品です。題材は忠臣蔵の義士銘々伝で杉野十平次と槍の名人・俵星玄蕃の友情・師弟愛を描いています。二大スター互角の共演であり、実質的にはむしろ十平次役の橋蔵の方が主演なのですが、序列の関係上(?)千恵蔵主演作となっています。屋台のソバ屋に身をやつした十平次と、弟子のいないさびれた道場で妹と暮らす玄蕃の出会いから始まって、吉良邸討ち入りのシーンまでほとんど非の打ち所のない娯楽時代劇の傑作です。柔の橋蔵と剛の千恵蔵がそれぞれの持ち味を十分に生かした共演で、特に橋蔵の持つ二枚目としての色気(美しさ・弱々しさ・優しさ・凛々しさ)が存分に発揮されていると思います。討ち入りの場面で橋蔵が見せる畳返しの槍術も見もの。玄蕃の妹を演じた花園ひろみさんもいいですが、十平次に思いを寄せる年増の芸者役の長谷川裕見子さんが女心の哀しさを見事に演じきっていて素晴らしい好演でした。

 橋蔵さんは大友柳太朗さんの「丹下左膳」に4本助演していますが、「妖刀濡れ燕」はその第3作です。第1作の「丹下左膳」は東千代之介や美空ひばりも出演している豪華版で、橋蔵は柳生源三郎の役なんですが、自分の好みで「妖刀濡れ燕」を選びました。これは昭和35年正月映画でした。翌年の正月にはやはり大友さん主演の「右門捕物帖 南蛮鮫」にも助演しています。

 「花笠若衆」は美空ひばりさんとの共演作で橋蔵さんは助演の形。ひばりさんの二役もので、お家騒動にからむストーリーです。ひばりさんの男装と殺陣が見もの。「ロカビリー剣法」を歌いながらの立ち回りは必見。(裕次郎さんの「嵐を呼ぶ男」のドラム合戦に匹敵する名場面かも。)劇中で歌うもうひとつの主題歌「花笠道中」の方がヒットしました。夢の中で橋蔵さんと新婚旅行をするシーンは楽しいです。まさにファン・サービスの決定版!!♪これこれ石の地蔵さん♪西へ行くのはこっちかえ♪黙っていては分からない♪

 「天下の副将軍」は月形さんの水戸黄門シリーズの1本。橋蔵さんは江戸っ子の板前役で登場しますが、この作品で初めて軽妙な演技を見せたと思います。ねずみ小僧スタイルがバッチリ決まっていて身のこなしも綺麗でした。錦之助の殿様(黄門の息子)にひばりの腰元も息の合った絶妙のコンビぶりを見せますし、大河内伝次郎や丘さとみのコミカルな演技も楽しいです。東映時代劇の中でも傑作のひとつと言える名品であり、必見の娯楽映画として自信を持っておすすめ出来ます。

 「幕末の動乱」は新撰組を中心にしたセミオールスター映画で、千恵蔵さんが近藤勇を演じています。橋蔵さんは勤王の志士・但馬織之助でした。池田屋事件やラストの近藤勇襲撃の場面は迫力があります。共演は他に大友柳太朗、高田浩吉、里見浩太郎、若山富三郎、黒川弥太郎、大川恵子、花園ひろみなど。

 昭和35年夏の「水戸黄門」は再びオールスターで作られ、月形さんの黄門映画はこの後「助さん格さん大暴れ」のみです。橋蔵さんの役は黄門様の息子の水戸中将綱条です。将軍綱吉に(切腹覚悟で)意見する場面が見せ場になっていますが、この映画の橋蔵さんは品の良い美しい殿様役を見せてくれます。奥方役の大川恵子さんも気品のある美貌でまさにハマリ役、死を決して登城する橋蔵さんと別れの杯を交わすシーンが絶品です。

 「勢揃い東海道」は昭和38年正月映画で、これが東映オールスター時代劇の最後となりました。この頃はもうすっかりパワーダウンしていて、夢よもう一度(?)といった感じで作られたようですが、橋蔵さんは吉良の仁吉役で女房役のひばりさんとの共演が見ものです(生まれたばかりの赤ん坊を連れ、夫婦揃って次郎長の元へ挨拶にきます)。荒神山殴り込みの場面でも橋蔵さんは大張り切りで、悲壮感あふれる殺陣を披露しています。作品全体としては物足りないのですが、冒頭の数十分だけに限って言えば、橋蔵ファンにとっては大いに見応えのある映画です。

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