》 旅がらすさんのベストテン
 

*大川恵子 編*

 昭和30年代の人気スターであり、東映城の姫君と謳われた大川恵子さんの映画の中から10本プラス5本を選んでみました。橋蔵さんの相手役を数多くつとめられた女優の一人ですが、20代半ばで結婚のため引退されました。

 大川恵子さんの出演作品は昭和32年2月から37年4月までの約5年間に95本あります。(ただし、「新吾十番勝負総集編」は除外。)平均すると1年当たり19本の映画に出演していた計算です。

 主演作は「姫君一刀流」の1本だけで、あとはすべて助演作となっています。また、デビュー当時は東京撮影所の所属(現代劇畑)でしたが、数本出演した後で京都撮影所に移っています。

 

 私が見たのはだいたい80数本というところですが、大川恵子さんの出演場面が思い出せないものも4割位はあります。小学生の時に1度見ただけで、その後はテレビ放映もなくビデオ発売もされていない作品が多いからです。いきおい、ビデオ発売された作品や、比較的テレビ放映機会の多い作品に片寄った選択にならざるを得ません。それは同時に、橋蔵・錦之助の映画やオールスター・セミオールスター映画が中心になることでもあります。

 選出の方針ですが、橋蔵や錦之助のベストテンとは異なり、作品の良し悪しは二の次です。大川恵子さんが特に美しかったと思われる作品、出番は少なくとも印象に残っている作品、を基準にして選び出しました。もちろん、これ以外の作品の大川恵子さんは素敵でないとか美しくないとか云うわけではありません。あくまでも私の好みによるものです。

 デビュー後1年ぐらいまでのものは演技が堅く、美しさが十分に開花しているとは云い難いものもありますが、その後はたいていどの映画をとっても大川恵子さんの美貌と気品は冴えています。

 またもう一つの方針としては、同じ役柄に集中しすぎないようにバラエティを考慮して選んだことです。共演者も大川橋蔵にばかり片寄らないようにしたかったのですけれども、こちらは如何ともしがたく(笑)。

     大川恵子出演映画ベストテン

      姫君一刀流(昭和34)
      赤穂浪士(昭和36)
      雪之丞変化(昭和35)
      喧嘩笠(昭和34)
      怒涛の対決(昭和34)
      南蛮鮫(昭和36)
      暴れん坊兄弟(昭和35)
      くれない権八(昭和33)
      恋山彦(昭和34)
      緋鯉大名(昭和34)

     <番外編>
      丹下左膳 怒涛篇(昭和34)
      天下を斬る男(昭和36)
      森の石松鬼より恐い(昭和35)
      故郷は緑なりき(昭和36)
      赤い影法師(昭和37)

 まずベストワンですが、これは唯一の主演作「姫君一刀流」で決まりでしょう。昭和34年6月封切りで、添え物の白黒作品でした。共演は伏見扇太郎です。当時見ただけなのでストーリーは忘れてしまって覚えていませんが、大川恵子の七変化(お姫様、鳥追い女、お小姓、覆面、芸者、その他)が見もの。

 男装しての殺陣も無論ありますが、覆面姿での激しい立ち回りの場面は吹き替えを使ってロングショットで撮っていたような気がします。また相手役の伏見扇太郎が助太刀に現れ、殺陣を肩代わりする(?)というか、カバーする場面もかなりあったと思います。引続き主演作が作られるのかと思っていたらとうとうこれ1本きりで終わってしまったのが残念です。ともあれ当時の大川恵子さんの人気のほどを窺わせる映画でした。

 ベストワン以外は順位をつけません。まずは大名の奥方様を演じた「赤穂浪士」(昭和36年3月))から。浅野内匠頭(大川橋蔵)の正室阿久里(瑤泉院)は出番こそ少ないものの、美しく上品で初々しい奥方ぶりを存分に見せてくれます。橋蔵さんとのコンビは美男美女の取り合わせで、まさに絵に描いたような美しさ。討ち入り直前の大石内蔵助(片岡千恵蔵)との対面シーン(南部坂雪の別れ)でも気品と貫禄を感じさせます。同じような役どころとして、昭和35年8月のオールスター映画「水戸黄門」では、やはり橋蔵さんとのコンビで水戸中将綱条の奥方を演じています。こちらも負けず劣らずの美しい
カップルでした。

 「雪之丞変化」(昭和35年正月)では雪之丞(橋蔵)が親の敵と狙う土部三斎の娘・浪路の役。華やかで気品のある美貌が素晴らしいです。大奥に上がって将軍の寵愛を一身に集める身でありながら、宿下がりの歌舞伎見物が縁で役者の雪之丞と恋に落ちてしまいます。橋蔵さんとのラブシーンも美しく情緒豊かに描かれています。
 
 次は股旅物から2本。「喧嘩笠」は橋蔵主演の昭和34年正月映画。大前田の栄二郎(橋蔵)の父・栄五郎の兄弟分海老屋甚八の娘お喜代の役。お姫様女優がヤクザの親分の娘なんてとてもとてもと思われる向きも多いでしょうが、さにあらず。これがなかなか様になっているから世の中面白い(?)。おまけに壺振りの演技まで披露してくれます。清楚な美貌に似合わぬ落着きと貫禄は不思議なほどでした。病身の父親に代わって一家を切り盛りしている健気な娘の気っぷのよさを感じさせながらも伝法ではなく、男勝りではあっても下品ではないという、まさに大川恵子さんならではの絶妙な演技です。

 「怒濤の対決」は昭和34年8月のオールスター映画。飯岡一家の代貸・洲之崎の政吉(錦之助)の女房役ですが、いわゆる典型的な世話女房を演じるのはこれが初めてだったそうです。飯岡一家と対立する笹川一家の夏目の新助(大河内伝次郎)の娘を嫁にもらった政吉が義理の板挟みになって苦しむのを支えていました。生まれてまもない赤ん坊をはさんで錦之助との若夫婦ぶりが印象的です。錦之助とヤクザの夫婦役を演じたのはもう1本、やはりオールスターの「任侠中仙道」があり、バクチ狂いの亭主のために身売りしようとする女房を演じています。が、出来は「怒濤の対決」の方が上でした。

 「右門捕物帖 南蛮鮫」は大友柳太朗・大川橋蔵共演の昭和36年正月映画。お家騒動で主家を追われた元家老の娘役でした。落魄した長屋暮らしの身とはいえ、れっきとした武家娘の役は大川恵子さんにうってつけ。着物は地味ながら折り目正しく清楚で気品のある美貌が冴えていました。同じような役(長屋暮らしの武家娘)では「若様や
くざ」も印象的でしたが、橋蔵主演作ばかり並べるわけにも行かないのでやむなく外しました。

 「暴れん坊兄弟」では東千代之介・中村賀津雄の兄弟役に対して、大川恵子・丘さとみが姉妹役を演じています。上品でいかにも育ちの良いおっとりした美しい武家娘の役です。妹役の丘さとみさんの方が実際には年上ですが、役柄の上ではとても逆転は有り得ないだろうと観念して(?)しまうほど、ぴったり呼吸の合った姉妹ぶりでした。
 原作は山本周五郎の「思いちがい」という短編小説。完全に東映調にアレンジされているとはいえ、沢島忠監督の演出が冴え、配役の妙もところを得て心温まる痛快な映画です。快調なテンポとユーモラスな描写は東映時代劇における傑作の一つでしょう。

 「くれない権八」(昭和33年)では父の仇と知らずに権八(橋蔵)と相思相愛の仲になってしまう娘の役。東映時代劇には珍しく、二人の恋模様をしっとりとした情緒の中に描いています。W大川のラブシーンは哀愁味をたたえて甘く美しく見応えがあります。

 「恋山彦」も大川橋蔵さんとの共演で、これまたお二人の美しいラブシーンがみものです。橋蔵さんは伊那の小源太(平家の末裔)と島崎無二斎(江戸の浪人剣客)の二役で、大川恵子さんは小源太の相手役です。無二斎の方は丘さとみさんが相手役をつとめました。どちらのカップルにもラブシーンがある(それもかなり長い)のがミソ。

 最後の「緋鯉大名」(昭和34年)は里見浩太郎主演作です。里見さんとはニューフェイスの同期ということで、この映画には友情出演的な意味合いがあります。それまで主演作は添え物のB級作品ばかりだった里見さんが、初めてメインの総天然色映画に主演(昇格)した記念すべき作品です。将軍(若山富三郎)より下賜された鯉の養育係に任命された里見さんが、悪家老一派の陰謀(お家乗っ取りの為、年に一度の包丁式の前日に池の「お鯉様」を毒殺する)と闘い、これを打ち破るというストーリーでした。大川恵子さんは殿様(大河内伝次郎)の姪(分家のお姫様)の役で、婿探しのため腰元になりすまして江戸へ出てくるという設定でした。恋に落ちた里見さんを婿に迎えて結ばれるという結末です。(里見さんは将軍様のお声掛かりで大名に出世。)ラストでは二人揃って池の鯉に餌をやるシーンで、里見さんの歌う主題歌が流れていました。♪鯉がとりもつ恋とやら・・・♪

 以上でベストテンは終わりですが番外編として、「丹下左膳 怒濤篇」と「天下を斬る男」の2本は大川恵子さんが第2ヒロイン(?)を演じた作品です。「丹下左膳」の方では確か奉行(月形龍之介)の娘役で、与力役の橋蔵さんに思いを寄せるもののすげなくされてむくれる姿が微笑ましいです。「天下」の方は大岡忠相(錦之助)の妹役
でした。出番は少ないのですが、どちらも上品できれいな武家娘役で印象に残っています。

 また、「森の石松鬼より恐い」では冒頭の現代劇の部分で寿司屋の女将に扮した姿を見ることが出来ます。本来(時代劇)の役は小松村の七五郎(鶴田浩二)の女房役でした。時代劇狂いの寿司屋の亭主(鶴田浩二)が出前に出たまま戻らないのを連れ戻しに来る場面がユーモラスです。

 「故郷は緑なりき」は大川恵子さんにとって久々の現代劇で、ヒロイン雪子(佐久間良子)のお姉さんの役で出ていました。ヒロインの恋人・海彦(水木襄)の回想で始まるストーリーになっていたと思います。原作は富島健夫の「雪の記憶」で、これは富島さんがジュニア小説に手を染めるきっかけになった小説でもあります。ちなみに舟木一夫主演「北国の街」(昭和40年・日活)は同じ原作に基づくリメイク版です。
   
 昭和37年正月映画の「赤い影法師」は最後から数えて5番目の作品です。薙刀の女武芸者・遠藤由利役ですが、忍者若影(橋蔵)と恋に落ちます。身をまかせるシーンでは橋蔵さんにつかまれた襟元が大きくはだけて肩が露わになります。さすがに胸までは見せないものの思わずドッキリさせられました。

 その他にも若山富三郎主演の「人形佐七捕物帖」(添え物のモノクロ作品)で佐七の女房役をつとめたのが4本ばかりあるのですが、なにぶんにも当時見ただけなので記憶がアヤフヤで自信が持てません。残念ながら選からは外しました。また、その他にもモノクロ作品への出演は多数あり、大友柳太朗・鶴田浩二・若山富三郎・里見浩太郎等の相手役をつとめていますが、それらも除外せざるを得ませんでした。

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