* 中村錦之助編 *

 中村錦之助(後に萬屋錦之介と改名)さんの映画出演作品を10本選んでみました。私の独断と偏見に基づくベストテンですがまずはご笑覧下さい。

 最初にお断りしておかなければならないのですが、錦之助さんの映画出演作品は「ひよどり草紙」(1954)から「千利休 本覚坊遺文」(1989)まで、143本あり(アンソロジーの「ちゃんばらグラフィティ 斬る!」は除く)、私はこのうち約3分の2に当たる90数本しか見ていません。特に初期の昭和29年から31年にかけての作品(白黒スタンダード)の中には見ていないものが多いです。32年以降39年あたりまではほとんど見ていますが、東映を離れた後のもの(昭和43年以降)については約半数(10本位)しか見ていません。ですから完璧な選択では到底有り得ないわけで、その辺はご理解とご容赦をいただきたいと思います。

 


 私の一番好きな「関の弥太っぺ」が何といってもイチ押しで、これをベスト1にしましたが、それ以外の作品には順位は付けません。説明の都合上このような並びになっています。
 また、番外編としてオールスター映画および播磨屋(萬屋)一家総出演映画の中から印象的な作品を4本選んでみました。

  ・関の弥太っぺ(1963)
  ・宮本武蔵5部作(1961−65)
  ・反逆児(1961)
  ・冷飯とおさんとちゃん(1965)
  ・遊侠一匹(1966)
  ・風と女と旅鴉(1958)
  ・遠州森の石松(1958)
  ・美男城(1959)
  ・一心太助 男の中の男一匹(1959)
  ・殿様弥次喜多 完結編(1960)

 <番外編>
  ・曾我兄弟 富士の夜襲(1956)
  ・忠臣蔵(1959)
  ・血闘水滸伝 怒濤の対決(1959)
  ・お役者文七捕物暦 蜘蛛の巣屋敷(1959)

 選出の基準ですが、作品として面白いもの、錦之助の演技が冴えているもの、を中心にしました。また、巨匠といえども作品が重複しないようにしたかったのですが、加藤泰監督が2本、番外まで含めると沢島忠監督が3本、佐々木康監督が4本入っています。

 マイ・ベストワンの「関の弥太っぺ」は中学2年生の秋に見て感動しました。当時は長谷川伸原作の股旅モノに凝っていて大いに期待して見に行きましたが、まさに期待通りの傑作でした。錦之助の演技が見事でしたが、木村功、大坂志郎、岩崎加根子、夏川静枝、月形龍之介と脇役も皆いい出来で素晴らしかったです。
 「十年前にはなかった傷だ、顔も変わった心も荒れた・・・」というのが当時の映画ポスターの惹句(コピー)でした。売られた妹を尋ねる旅の途中、親を亡くした女の子(お小夜)を助ける気のいい若者といった感じの前半の弥太っぺと、頬に切り傷のある凄惨なまでに荒んだ雰囲気を漂わせる十年後の弥太っぺが実に対照的でした。芝居の中のこととはいえ、あまりの変貌ぶりに思わず息をのみましたね。メーキャップの工夫だけではとてもあそこまでは、と思わせる迫真の演技でした。
 十年前に助けて連れてきたのが自分であることを気づかれないように、三度笠をかぶったままうつむき加減に顔を隠して振る舞う弥太っぺですが、それでも思わず昔とまったく同じことをお小夜に向かって言い聞かせてしまう場面が切ないです。ラストの大立ち回りは省略して、「死」を暗示するかのような余韻のある終わり方もいいですね。

 「宮本武蔵」は1本だけ選ぶなら断然第1部なのですが、一応5部作全部を入れました。次点は第4部の「一乗寺の決闘」です。第1部の面白さに比べると他の4作はテンションがやや落ちるように思います。内田吐夢監督では他に「浪花の恋の物語」もよかったです。

 「反逆児」は伊藤大輔監督作品で、家康の長男・信康に扮した錦之助のダイナミックな演技が素晴らしく、信長の月形さん、築山殿の杉村春子さん、徳姫の岩崎加根子さんもいいです。

 田坂具隆監督の「冷飯とおさんとちゃん」は山本周五郎の短編小説を脚色したオムニバス形式の作品。特に「冷飯」と「ちゃん」が面白いです。「ちゃん」は当時の批評でも絶賛されていましたね。田坂監督では「親鸞」「ちいさこべ」もあります。

 「遊侠一匹」「風と女と旅鴉」はともに加藤泰監督作品。「風と」は錦之助が初めてノーメイクで挑んだ作品。共演の長谷川裕見子さん、丘さとみさんもいい味を出しています。「遊侠」はサブタイトルが「沓掛時次郎」で、「関の弥太っぺ」や「瞼の母」と同じく長谷川伸の原作。股旅モノの傑作というだけでなく、大人の恋愛劇としても十分鑑賞に堪えられる作品になっています。加藤泰監督では他に「瞼の母」もあります。

 「遠州森の石松」は、東宝版「次郎長三国志 海道一の暴れん坊」のリメイクで、監督は同じマキノ雅弘でした。喧嘩一筋に生きてきた石松が初めて恋を知る、美しくも哀しい青春物語。

 「美男城」は柴田錬三郎原作の戦国時代絵巻。錦之助にはどちらかというと珍しい剣士もので、東映時代劇らしからぬアン・ハッピーな異色作。白塗りで虚無的な錦之助が格好いいです。また、東映三人娘(丘さとみ・大川恵子・桜町弘子)が全員出演しているのも見もの。

 「一心太助」は全部で5本作られ、最後の1本(「男一匹道中記」)を除いてあとは全部面白いです。「天下の一大事」や「家光と彦左と一心太助」も捨て難いのですが、1本だけ選ぶとすれば第3作「男の中の男一匹」が私の好みです。

 「殿様弥次喜多」も3本作られ、前2作の「怪談道中」「捕物道中」も痛快ですが、美空ひばり、丘さとみ、大河内伝次郎がそれぞれにいい味を見せる「完結編」がやはり一番です。丘さとみさんの焼き芋売りはケッサク。”い〜し〜やきいも〜”の声が忘れられません。

 番外編ですが、「曾我兄弟 富士の夜襲」では曽我五郎を、「忠臣蔵」では浅野内匠頭を、「怒濤の対決」では飯岡一家の洲之崎の政吉を、それぞれ好演しているのが非常に印象的なので選びました。

 最後の「蜘蛛の巣屋敷」は、父君の三世中村時蔵をはじめ長兄歌昇、次兄芝雀(四世時蔵)、弟の賀津雄と、播磨屋一門が総出演の上、千恵蔵が大岡越前役で助演するなど、豪華版の娯楽作品です。劇中で三世時蔵が「女暫」を演じるのも見物。錦之助も張り切っていて鮮やかな演技を見せてくれます。

 

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